水島くん、好きな人はいますか。
「あだ名だから、くん付けはしないでほしいかな」
「ハカセは理科がいちばん得意で、勉強するときだけ眼鏡かけるの。つまりまあ、毎日かけてるようなもんだよね」
「顕微鏡によく眼鏡ぶつけちょるしな。実験で白衣着るじゃろ? あれがおもしろいくらい似合うけん」
笑いながら説明してくれるふたりに続き、白衣が似合うらしい彼は、自らの名前が書かれたノートを取り出す。
「ちなみに本名は博(ひろむ)。惜しいよね。博士(ひろし)じゃなくて」
「あははっ! 出た!」
「本気で惜しいと思っちょるもんな!」
「前は博打のひろむって自己紹介だったくせにねーっ」
高笑いするふたりに、無意識のうちに頬がほころぶ。
ハカセって物静かだと思ったら、陽気な部分もあるんだ。
彼にあだ名がついたときのことを想像すると、仲がよくて、にぎやかそうなクラスだなと思った。
それがなくとも毎日楽しそうな瞬を見かけてはいるけれど、その中に半日だけでも混ぜてもらえたような気がして、嬉しくなった。
ドリンクバーを頼んだあとはそれぞれが静かに勉強をしていた。時折、会話を挟んで笑ったりするのは瞬たちの席も同じだった。
だけど、やけに瞬たちはおしゃべりばかり。そう思うのは、意識しているからだとわかっていた。
気にしない。と言い聞かせても、無理なものは無理だったりする。