水島くん、好きな人はいますか。
「うちで飯食うだろ?」
背中へ添えられた手に、奥歯を噛み合わせる。
見上げるといつもの瞬が。少し不機嫌そうにわたしを見るいつもの瞬が、いて。
「わぁかったよ。おでんな? おでんも食いてえんだろ? 特別に買ってきてやるよ、仕方ねえな」
下手くそな演技までして、わたしをこの場から連れ出そうとする瞬に、歯を食いしばるのをやめた。
「うどんも入れてほしい……」
「お前どんだけうどん好きなんだよ」
ぐっと今度は強く背中を押され、歩き出す。
お母さんと見知らぬ男性はぽつぽつと会話を続け、わたしも瞬もふたりには声をかけないままリビングを出た。
なんて……みっともないんだろう。状況が悪くなった途端に、避けようとした相手に都合よくすがってしまった。
もっと性質が悪いのは、瞬ならどうにかしてくれると頭をよぎっていたこと。瞬がわずかでも出遅れたら、何事もなかったようにわたしのほうから助けを求めていたこと。
ずるいのは、ひどいのは、瞬じゃない。
わたしにとって瞬の言うこと全てが正しいわけじゃないけど、結果的にはいつも瞬が正しかったと思い知る。
だからわたしは反論ができても、完全には逆らえない。
それを認めたくなくて。暑苦しいと。うんざりだと。そう思いながらこれ以上にもっと、甘やかしてほしいと望むわたしのほうがずるくて、ひどい。