水島くん、好きな人はいますか。
「お前は人の目ばっか気にして逃げてる小心者に見えるけど、自分中心に動けねえだけだ。意思はあっても他人のそれを突き放せるほど貫きたいもんがねえから、反抗はしても結局は俺の言うこと聞き入れちゃうんだもんな?」
……あるよ。貫きたいものくらい。多数決で負けたって、要らないと思うものもある。
「聞かせろよ。そんなお前に、なにがなんでも離れたい理由ができたっていうなら、言ってみろ」
おもむろに顔を上げた瞬の瞳は真剣だった。その奥には憂慮の色も潜んでいた。
いつもそうだってこと、知ってるよ。
気ままで口も悪いし、獰猛で怒ると怖いけれど、それが全てじゃないってことも。
瞬の心根は、わたしが知る誰より優しいということも。
「瞬は……わたしが揉め事を引き起こす種になるから『教室に来るな』とか『あいつとは関わるな』って言うけど……そこまでするようになった原因はなに?」
瞬が事前に告げてトラブルを極力避けようとするのは。
ああしろ、こうしろって口うるさく言うのは。
「瞬がわたしの味方でいてくれようとするのは……罪悪感からでしょう?」
目を見張った瞬の瞳が、揺らぐ。
知ってたよ。気付いていたの。瞬は純粋に、無条件に、わたしの味方でいてくれるわけじゃない、って。