桜下心中
「警察、行かなきゃいけないね……」

「……佐恵……」


 圭太の瞳は、夜の闇より深かった。

 月明かりの中で、お互いを自分の一部にするように硬く体を寄せる。

「朝が来たら、一緒に警察に行こう、圭太」


 圭太が、すうっと息をしたのが分かったけれどそれは、驚きの息ではなくて、覚悟した、と言った方が良い気がした。


「もうたぶんわたし、長くはないと思うのよ。発作も頻繁なの」

 え、と圭太が短く言う。

 月に向かってなのか、犬の遠吠えが聞こえた。

「生きなきゃだめだよ、約束よ、あなたは生きて」

「佐恵」

「わたしの分まで」

 薄暗くてはっきりしないかもしれないが、わたしは精一杯の笑顔を作った。

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