地味子の秘密 其の五 VS闇黒のストーカー
自分の過去を話し終えて、部屋は沈黙が続く。

抱きしめたままの杏は、腕の中から少しも動かない。

俺の胸に顔をうずめて、表情が見えないままだ。


怖くなる。

このまま、『別れたい』なんて言われるんだろうか?

杏を抱きしめる手は、見ただけでわかるくらいに震えていた。


頼むから、離れて行かないでくれ……!

心の中で、そう叫んだ瞬間。



「……過去の話ってそれだけ?」


今まで黙っていた杏が口を開く。


「え?」

「だから、女の子とたくさん関係を持っていたってことだけ?」

「あ、あぁ……」


彼女の突然の質問にたじろいで、そう返した。


すると。


「な~んだ」


パッと顔を上げ、笑顔で俺を見上げる。


え……?


コイツ、話聞いてたのか?


「杏?」

「ん?」


名前を呼ぶと、『なあに?』というような表情で、ニッコリと笑いかけられた。


「俺の話聞いてたか?」

「うん」


そう聞くと、コクンと頷かれる。

聞いてたなら……なんでこんなにケロッとしてんだ?


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