妖魔05~正道~
クルトは黙ったままだった。

「今からいう事は子ども扱いして言うわけじゃない。いいか?お前は長く生きていても知識や経験が足りない。だから、他にお前のやりたい事、出来る事があるって事を経験して知って欲しい。選択の幅を増やして欲しい。誰かに認められたいというのなら、別の事も試してみたらどうだ?それで成功すれば、命の危険も少なくて済むし認められるだろう?」

「本当、か?」

「今の俺に言われても納得出来ないかもしれないが、俺もやるべき事が終われば、必死で職探しをして社会で信頼を勝ち取らなくちゃならない。それはお前と同じく、誰かに認めてもらうという事だ。もちろん、俺も戦いに身をおくような仕事はしないと思う」

「紹介は?」

「絶対に仕事に就ける保証はないけども、妖魔の里という場所でお前が安全に仕事が出来る場所がある。いいな?そこで仕事探しをしよう」

俺のいう事を聞く気がないというのなら、これ以上言っても無駄になる。

「オラは、家族に認められたい」

「家族に?」

「お姉達はオラよりも立派で何でも出来て、オラだけ、何も出来なくて、悔しくて旅に出ただ」

姉と自分を比較して、劣等感に苛まれていたという事か。

「でも、やっぱりオラは出来損ないだ。何の役にも立ててねえ」

クルトが悔し涙を流し始めた。

「お前は自分の出来る事を見逃している」

「え?」

「お前はお前だけの力を使って俺を助けた。それは、誰かを傷つける事じゃなく、誰かのために何かを出来るって事だ。優劣なんか関係ない。その気持ちさえあれば、お前だけが出来る仕事だってすぐに見つかる。だから、後は行動するだけだよ」

クルトは少しだけ方向性を間違えてただけだ。
< 14 / 290 >

この作品をシェア

pagetop