妖魔05~正道~
「秋野さん、だよ」

「湊さんが?」

まさか、自分に施していた技術を、美咲にも施したのか。

「この前、私の元に来て魔術をかけたんだ。それで、全部、思い出したよ」

「何故、そんな事をしたんだ」

「謝罪なのかどうなのかは解らない。でも、それで、私の得た物は大きい」

怒っている。

俺は体勢を立て直し、美咲に向き直る。

湊さんの真意は解らないにしろ、厄介な事をしてくれたものだ。

「私は、丞の口から聞きたかったよ」

「ごめん」

自然と頭が垂れる。

「大丈夫だから」

美咲が俺の手を掴む。

「私は、もう、あなたを置いていかない」

「でも」

「あなただけの責任じゃない。吟さんも、それは理解してる。確かに、あなたのためにした事だけど、あなたのせいにしようなんて思ってないし、思っちゃいけない」

「美咲」

「悲しむのはいい。でも、あなたの言った言葉には責任を持って。いつまでもうじうじする事で相手を悲しませるんだよ。それを、あなたは知っているはずなんだ」

一瞬、涙が出そうになるが、堪える。

「そう、だな」

「そうだよ」

「悪かった」

「ううん、私を気遣っての事だから、全てあなたが悪いわけじゃない。逆に嬉しいくらい」

やはり、美咲は笑顔が似合うな。

「でもよ、何でビンタなんだ?俺は確か、デコピンだったような気がするんだけどな」

「男の子なんだから、それくらいは我慢出来るかなって」

結構、痛かったんだがな。
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