世界を敵にまわしても
「んー、そうかな? でも放課後になると、今日も無事に終わったー!って思うから、気が抜けてるかも」
「へー」
「あれ? 聞いといて何で素っ気無い返事?」
「別に普通ですよ」
腰掛けていた椅子から立ち上がり、あたしは準備室の奥へ向かう。
先生に背を向けて、興味も知識もないのに棚に並ぶ音楽の本を眺めた。
赤くはなってないと思うけど、平然とした表情は作れないと思ったから。
だって、もしかしなくても、気の抜けた先生を見てるのってあたしだけじゃない?
嬉しいかもしれない。
ちょっと……ものすごく、特別な気分。
「奏ちゃーん! 居るー!?」
……晴とはここでよく会うな。
「マジ褒めて! てか褒めるべき!」
あたしが振り向いたと同時に、ガタッと先生が勢い良く席を立った。
「俺、ちゃんと言われた通りに美月のこと守っ――……」
満面の笑顔の晴が準備室に現れて、先生が立ち上がったまま固まって、あたしは目が合った晴から先生の背中に視線を移す。
「ぎゃ――――!! やっちゃった俺ぇぇぇええ!!」
バシッと自分の頬を両手で挟む晴の叫びが、準備室にこだました。