世界を敵にまわしても


色んなことを考えながら昇降口を出たから、3階を見上げるのを忘れてしまった。


放課後に先生と逢った後は必ず、音楽室のベランダに先生の姿を探してたのに。


だけどその習慣を忘れてたことさえ、この時のあたしは気付かない。


だから、先生もベランダへ出ていなかったことに、気付かなかったんだ。



露骨に、あからさまに。
全身で好きだと伝えてくる先生に、あたしはきっと、やっぱり浮かれていた。


恥ずかしいと思いながら嬉しくて。

バレたらどうするんだと不安になりながらも幸せで。


夜が好きだと言った先生の言葉の意味すら。


『離れようとしないで』


泣きそうな繊細さを含みながら、訴え掛けるような声で言った先生の胸の内すら。


あたしは、その時になるまで気付かない。


歪んだ秘密は、未完成な愛だったと。



――繋いだ手が離れていくなら、あたしは何も知りたくなかった。



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