世界を敵にまわしても
「ねぇ」
気付いた時にはもう声は発せられた後で、母どころか兄と那月まであたしの方を見ていた。
自分の手が鞄の紐をギュッと強く握りしめて、鞄の外ポケットに入っているものに全神経が集中する。
「今日……」
「なあに?」
重なった母の声は有無を言わせぬ圧力を持っていて、背中に冷や汗が流れた気がした。
脈打つ鼓動は自分のモノなのに、まるで外から聞こえるみたいにうるさい。
喉が、乾く。
「今日……この前の、試験の結果が出た……んだけど」
3人の視線に耐えきれず、あたしはフローリングに向かって言葉を投げた。
それでもグラグラと揺れる視界は、あたしが今どれほど緊張しているかを証明してる。
――言った。
1位を獲ったんだって、言え……。
「それだけ?」
揺れていた視界が、ピタリと静止する。代わりに、頭を叩かれるよりもっと強い衝撃を受けた。
「あんな高校で出した成績に、どれだけの価値があるのかしら」
ハァ…という母の溜め息が、言葉が、何重にも何重にも重なって頭の中でこだまする。
「もう、ご飯食べないなら早くお風呂入りなさい。那月の勉強の邪魔しないでちょうだい」
「……」
顔を上げたらダメだ。
きっと、那月がオロオロしてる。
兄が怖い顔をしてる。
母はもう、あたしの事など見ていない。
ズルッと右足を後ろに引いて、あたしは床を見たままリビングを後にした。