世界を敵にまわしても


「ありがとう晴」


そう言ってすぐ、晴はゆっくり振り向いた。満面の、いつもと変わらない笑顔で。


「どーいたしましてっ」


……もっと、もっと、ありがとうって伝えたいけど。

この学校で晴と過ごす時間はまだたくさん残ってるから、笑い返すだけにした。


「はーあ。俺フラレたの初めて」

「えっ! やっぱ晴モテるんだね」

「美月はフラれまくってるよな、奏ちゃんに」


ボソッと言った晴に飛び蹴りしてやろうかと思った。


晴が話題を変える為にわざと言ったのは分かっていたけど、空気が和むどころか亀裂が入った気がする。


「あははっ! 嘘だよ、冗談っ!」

「……いいよもう、事実だし」


確かにあたし、先生にフラれ続けてる。というより拒否されてる。あたしだけじゃなく、多分未だに電話もメールも。だからこそ、待とうと思えたのかもしれないけど。


「なー美月」

「ん?」


見ると、晴は受信ランプが明滅する携帯の画面に視線を落としていた。右に左に動く目線で、メールを読んでいるんだとわかる。


読み終わったのか、顔を上げた晴は携帯画面を顎につけて、大きな目であたしを見すえた。
< 517 / 551 >

この作品をシェア

pagetop