世界を敵にまわしても
「ありがとう晴」
そう言ってすぐ、晴はゆっくり振り向いた。満面の、いつもと変わらない笑顔で。
「どーいたしましてっ」
……もっと、もっと、ありがとうって伝えたいけど。
この学校で晴と過ごす時間はまだたくさん残ってるから、笑い返すだけにした。
「はーあ。俺フラレたの初めて」
「えっ! やっぱ晴モテるんだね」
「美月はフラれまくってるよな、奏ちゃんに」
ボソッと言った晴に飛び蹴りしてやろうかと思った。
晴が話題を変える為にわざと言ったのは分かっていたけど、空気が和むどころか亀裂が入った気がする。
「あははっ! 嘘だよ、冗談っ!」
「……いいよもう、事実だし」
確かにあたし、先生にフラれ続けてる。というより拒否されてる。あたしだけじゃなく、多分未だに電話もメールも。だからこそ、待とうと思えたのかもしれないけど。
「なー美月」
「ん?」
見ると、晴は受信ランプが明滅する携帯の画面に視線を落としていた。右に左に動く目線で、メールを読んでいるんだとわかる。
読み終わったのか、顔を上げた晴は携帯画面を顎につけて、大きな目であたしを見すえた。