世界を敵にまわしても


「はは! まぁ、暫く宜しくね」

「帰ります、さようなら」

「あれ? そうなる?」


そもそも今日はお礼を言いに来ただけだし、別に担任代理だからって、音楽室に居る時みたいに話せるわけでもないと思うし……。


机に置いていた鞄を肩に掛けると、背後から「気を付けてね」と声を掛けられる。


振り向いて何か言ってやろうと思ったけど、穏やかな微笑みを携える先生にそんな気力は無くなってしまった。


何か、ズルい。


「……気を付けます」

「うん。また明日ね」


準備室のドアにもたれながら緩く手を振る先生が、どこか嬉しそうにはにかむから。


あたしまで、堪えていた嬉しさが溢れだしそうになる。


視界が許す限り先生の笑顔を見てから、あたしは前だけを見て音楽室を出た。


人気のない廊下で緩む頬を隠す事もなく、心の中でソッと呟く。



――また明日、先生。


< 95 / 551 >

この作品をシェア

pagetop