世界を敵にまわしても
「はは! まぁ、暫く宜しくね」
「帰ります、さようなら」
「あれ? そうなる?」
そもそも今日はお礼を言いに来ただけだし、別に担任代理だからって、音楽室に居る時みたいに話せるわけでもないと思うし……。
机に置いていた鞄を肩に掛けると、背後から「気を付けてね」と声を掛けられる。
振り向いて何か言ってやろうと思ったけど、穏やかな微笑みを携える先生にそんな気力は無くなってしまった。
何か、ズルい。
「……気を付けます」
「うん。また明日ね」
準備室のドアにもたれながら緩く手を振る先生が、どこか嬉しそうにはにかむから。
あたしまで、堪えていた嬉しさが溢れだしそうになる。
視界が許す限り先生の笑顔を見てから、あたしは前だけを見て音楽室を出た。
人気のない廊下で緩む頬を隠す事もなく、心の中でソッと呟く。
――また明日、先生。