CHANCE 1 (前編) =YOUTH=
そんなこんなで、西条店長と本堂店長の二人からのダメ出しは、朝10時から1時まで続いて、ようやく1曲目を録り終えた。
食事休憩を挟んで、2時半にレコーディングを再開した。
続いては、パンク系の曲
《風の行方》だ。
5コードで構成されたこの曲は、簡単そうでなかなか厄介な曲である。
要所要所に入っている16分音符が、曲に拡がりとインパクトを、もたらしてはいるものの、どうにもベースと俺のギターが噛み合ってくれない。
『ストップ!
ベースとギター、一体何回やり直したら気が済むんだ?』
「テジュン、間奏部分での16分音符が、微妙にずれて聞こえてきたけど…。」
『すまん!
どうも右手の人差し指と中指の筋が、さっきから痛くて…。』
「まさか腱鞘炎!?」
『そこまでひどい訳じゃ無いんだけど、少し痺れてスムーズに動いてくれないんだよ。』
「本堂さん、西条さん、どうしますか?」
『林君、2フィンガー奏法からピック奏法に変えてみたらどうかな!?』
「ピックですか?」
『あぁ!
この曲は、パンクロックなんだから、ピックで演奏しても、何の支障も無いだろう!』
「そうですよね。」
『じゃあ、君の持っているピックで、一番ソフトなやつを使って弾いて見てくれ。
後は、パワーコードの部分は音がぶれない様に気を付けて。
じゃあ、頭からもう一回な!』
ピックに変えてからの演奏は、先程とは打って変わって力強く、ノリの良い作品に仕上がり、直ぐにOKが出た。
最後の
《スポットライト》
は、先程の曲と同様パンクロックだが、歌詞は、フォーク調で、なかなか面白かった。
夢を追いかける難しさや、なかなか好きな人と過ごせない辛さを歌っているのだが、凄い速度で歌い上げると、それでも何とかなりそうだ!って思わす感覚が芽生えて、不思議な感じのする曲となっている。
夜の8時過ぎに、ようやく全曲レコーディングが終わった。
『OK!
これで12曲全て録り終えた事になる。
プレスが終わるまで、多分2ヶ月近く掛かるから、それまでに事務所と相談して、新作アルバムの発表スケジュールを組んで貰っておけよ。
俺の経験からすると、だいたい7月の中旬には発売出来ると思うよ。
まぁ、ジャケット撮影がスムーズに行ったらの話だけどな!』