レモンドロップス。
「陽斗のお母さん、ですか・・・?」
「あの子の母親、律子って言うんだけどね、律子が事故を起こして病院に運ばれた時、まだ意識があったのよ」
おばあさんは辛い思い出を、なぜだか懐かしそうに目を細めながら話している。
その目には、陽斗のお母さんの姿がくっきりと映っているのかもしれない。
「駆けつけたあたしに言ったのよ、『陽斗のことお願い。あたしの代わりに守ってあげてね』って」
あたしは、ただ吸い込まれるようにおばあさんの言葉に耳を澄ませた。
思いがけない話に、相槌も打てなかった。
「『あの子が誰かを守れるようになるまで、お母さんがあの子を守ってね』、それが律子の最後の言葉だった」
いったん言葉を区切るとおばあさんは、潤んだ瞳でカフェオレからゆらゆら立ちのぼる湯気を見つめた。
「好きだった車の運転で事故を起こすくらい、律子の心は不安定だったと思ってたけど、最後の様子からするとそうじゃなかったのかもね。あの子の心は傷んでなかったと今になって思うの」
「陽斗は、お母さんの心が不安定だったってあたしに言ったことがありました、それがお父さんのせいだって・・・」
そこまで言って、あたしはハッとして言葉を飲み込んだ。
こんなこと、言っちゃいけなかったかも。
「わたしもそう思って倉本さんを恨んだことがありました。実際律子は離婚で相当辛い思いをしましたしね。でもあの子は立ち直ろうとしてたんですよ」
おばあさんは、はっきり言った。
その目はもう、潤んでいない。
「あの子の心は強かった、最後まで。私はそう信じてます。だから倉本さんを恨むのも中止にしたの」