レモンドロップス。


「陽斗のお父さんに会ったよ」


その一言が言えないまま、真冬の時間は流れるように過ぎていった。

冬休みの宿題も、終業式も、テレビのクリスマス特番も、全部平べったい、ただの背景だった。


背景たちの前に、宙ぶらりんの言葉が浮かんでいる。


「お父さんに会ったよ」


なんで言えないんだろう。

本当は、その理由にあたしは気づいていた。


その後に続く言葉を口にするのが怖いからだ。

あたしの言葉を聞いた陽斗の顔を見るのが怖いからだ。


倉本さんに会うまでは、陽斗と同じように彼に対してあたしも反発を抱いていた。

父親が浮気をして子どもを作り、家族を捨てた。

その事実を許せない気持ちは一緒のつもりだった。


でも実際に倉本さんに会って、あたしの心の歯車はカチリと音を立てて、違う方向に回転し出したのかもしれない。


倉本さんをいい人だったとは思わない。

けれど、悪い人でもなかった。

陽斗と似たまなざしを持つ、優しくて、少し弱い人だった。


でも、この気持ちは陽斗に伝わるのかな。



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