ヤンデレな人たち
「はい。お釣りです」



 そう言って差し出す手を彼女はお釣りの銀貨だけを掴んだ。



「ありがとうございました」



「どうも」



 彼女は優雅に一礼をして去っていった。



「何だ、また貴族様じゃねえのか?」



 店に戻って来た父親が彼女の後姿を見てそう言った。



「知ってるの?」



「うーん。どこの人かは知らねえが、かなりの有力貴族の御令嬢だったと思うぞ」



 父親の話に、ふーん。とどうでもいいような口ぶりだった。



 そして少女は次の日も次の日も同じものを買いに来る。その都度、青年の背筋がぞくっと震えている。果たしてどういうことなのか分からない。



「うーん。貴族のようで違うのかねえ?いつも同じものを同じ時間に買いに来るのだから、貴族じゃない?」



 そして今日も買いに来た。これで七日連続であった。



「あの……」



 買い物を終えた彼女はいつもの彼女とは違った。商品を渡しても帰ろうとしない。少し頬を赤らめてもじもじしていた。



「あの……。良かったら私と……」



 そこまで言って彼女は顔を伏せた。そこで父親が出てきた。



「そこまで言ってるんだ。どうだ?一回お茶でもしてきたらどうだ?」



 父はもう完全に彼女のことを信頼しているようだ。もうここの常連だからだろう。今まで来た貴族の人間とは全く違う。彼女たちは降られたらもう来なかったし、元々買い物すらしなかった。



「……父さんがそこまで言うなら」



 仕方なく青年はその少女を近くの喫茶店に連れていった。少女は父親にぺこりとお辞儀をして青年の後ろをとことことついて行った。




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