教育実習日誌〜先生と生徒の間〜

その日から、夜11時ちょうどに先輩が私の部屋へ来るのが日課になった。


「万が一バレた時、俺が無理やり入ってきて断れなかったって言えばいいから」


先輩はそう言ったけれど、今のところみんなから怪しまれている様子はないみたい。


11時から12時まで、その日の出来事を少し話して、時々勉強を教えてもらう。


先輩はいつも優しく語りかけてくれるから、臆病な私でも『怖い』と思ったことはなかった。



付き合い始めて1週間経った日のこと。


12時になったので、先輩が部屋へ戻ろうとした。


いつものように、部屋のドアまで見送ろうとして、私も立ち上がったら、ふいに抱きしめられた。


「!!」


驚いて固まった私に、先輩がたずねる。



「おやすみのキス、しようか?」



え? キス? ま、待って!


また、パニックになって言葉が出ないのを肯定だと受け取られたのかも知れない。


顔を上に向けられ、先輩の唇が私の唇に触れた。


びっくりして開いたままの目に、先輩の顔がよく見える。


眼鏡越しに見える、閉じられた目。まつ毛が長いな、なんて一瞬思ったけど、今されていることを考えて、身体全部がかああっと熱くなったような気がした。



「おやすみ」



すぐに唇が離れて、身体も解放され、先輩はまたそっと部屋から出て行ったけれど。


私はカーペットの上にへなへなと座り込んでしまった。


初めて、男の人とキス、しちゃった。

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