教育実習日誌〜先生と生徒の間〜
菫は国語、俺は社会なので、授業中はほぼ別行動になる。
今日も職員会議があり、議題は再来月の行事予定なので、実習生も指導教諭と一緒に参加している。
……これが生徒指導上の会議などの場合、実習生は外に出されるのだ。
職員会議が終わった職員室で。
「松本先生、私、気になる生徒がいるんです。
木内美羽(きうち・みう)ちゃんって、何だかクラスの中になじめていないような……」
菫がそう、切り出した。
さすがだな、もう気づいたのか。
こう見えても、菫はかなり鋭い観察眼を持っている。
「もう気づきましたか。
実は、木内は『場面緘黙症』なのです」
『ばめんかんもくしょう』
この耳慣れない言葉を最初に聞いたのは、木内がうちのクラスに入ることが決まってからだった。
入試の時から配慮されていた生徒だったらしいが、3月31日までK大学の院生として現場から離れていた俺は、それを全然知らなかった。
中学校からの引継ぎ資料と指導要録、それに家庭訪問で知りえた本人の様子、さらに自分で調べた知識を菫に伝える。