教育実習日誌〜先生と生徒の間〜
血の気が引いた。
頭から顔、首、背中・・・・・・と次第に冷たくなっていくような感覚。
目の前のテーブルに置かれたビールの缶に、水滴が浮かび上がり、大きな雫となって流れ落ちる。
それをただ呆然と見ていた。
携帯から聞こえる菫の声が、震えている。
『相手はね・・・・・・同じ下宿の3年生で、理系クラスっていうことしか、まだ聞いていないの。
でも、調べたらすぐに判るよね。
まだ、相手にも、おうちの人にも、誰にも話さないで・・・・・・一人でずっと悩んでいたんだって。
美羽ちゃん、今はずっと泣いてて、リビングでお母さんとお姉ちゃんが慰めてる。
明日、お母さんが産婦人科へ連れて行くから』
「わかった。結果次第では、木内と相手、それぞれの保護者と話し合わなければならないだろうな」
『うん・・・・・・』
「菫は今までよくやってくれたよ。ありがとう。
菫が実習に来ないと、ずっと気づかないでいたかも知れない。
感謝してる」
電話を切って、すぐにマル秘の『生徒名簿』を取り出す。
3年、理系クラスで、ボーディングハウス三沢に住んでいる男子。
該当するのは一人だけ。
・・・・・・これは、保護者同士の話し合いが難しくなりそうだ。