忘れない、温もりを
よし、準備は万端。
時間は11時50分

あとは…



テーブルの上の携帯が震えた。

大きく息を吸う。


「はい」
「俺。着いたで」





電話をカバンに押し込み
玄関に向かう。


サングラスを取り、
ミュールを履いた。

「いってきます」

お兄ちゃんの声が奥からあたしを送ってくれた。



エレベーターに乗り込み、1階のボタンを押した。

ああ…緊張する。
昨日の今日だしなぁ…



あっという間に1階についてしまった。

エントランスを出て
仁の姿を探した。



「えー…いないじゃん…」

あたりを見渡すけど、
大通りに面したそこは人が多く
仁の姿は見えなかった。



パパッ

クラクションの音がした。
その方を見ると、
シルバーの車が道路脇に止まっていた。



「ひなた!」
歩道側の窓から仁が首を出していた。

「じん〜」
車に駆け寄る。
仁の髪がオレンジに光った。



車道に出ると、
仁が内側からドアを開けてくれた。

「どーぞ?お姫さま」
悪戯に笑う顔
たまらなく可愛い

「どぉも」
可愛くない返事をすると
仁は喉の奥で笑った。



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