忘れない、温もりを
低いエンジン音が
身体を貫く。

少し硬めの黒い皮張りのシート
甘いカーコロンの香り
軽快にハンドルを回す仁


「昨日寝れた?」
横目であたしの方を見た。

「うん、快眠♪」
「俺、全然寝られへんかった」


「寝てないの?」
「ん〜…」
仁は目尻に涙を浮かべ、欠伸をした。



こうやって
助手席に座り、隣で運転する仁を見ると
なんだか更に魅力的だ。

あたしはまだ高校生で運転ができないから
それが出来る彼は
すごく大人に見えた。



「あたしのことばっかり考えてたんでしょ」

冗談半分に言ったこの一言を後悔してしまった。


「アホぉ」

仁の手が伸びてきて
あたしの頬をつねった。

苦い顔で目を細め
右の口端を上げた。


「図星や」

なぜか得意気にそういった仁があまりに予想外で

あたしの方が恥ずかしくなって



仁の指に摘まれた
頬が熱くなった。


「赤くなってんで?」
声を上げて仁は笑い、
摘んだ指をほどいて

赤い頬を手のひらで包んだ


それがまた
あたしには恥ずかしくて

仁の手を振りほどくように
窓の外を見るフリをして
そっぽを向いた。


「うるさいぃ〜」
「可愛えなぁ、ひなは」


窓の外の景色は
どんどん走り去っていった。



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