天使と野獣

ピストルに気付いた京介は、

仕方なく自分の身で佐伯を庇う事にして
銃口の前に飛び出した。

それは京介自身のとっさの判断だ。


自分がいて他の人を傷つける事は、

用心棒志願の京介にとっては考えられない、

許されない事だと思っている。



「パシュ。」



鈍い発射音が地下室に響き渡った。



「痛っ。やったな。」



右の腿を撃たれたが… 

その時の京介は
獲物を狙い損ねて怒り狂っているタイガー。

痛いが、
まだ獲物が目前にいるのに逃がす事は無い。

いや、手負いの獣ほど恐ろしいものは無い。


獲物をしとめてから… 

と一分も立たないうちに中華料理店にいた三人を倒した。




「東条君、大丈夫か。
今救急車を呼んだ。

それにしても… 君は強いなあ。
ありがとう、命拾いをしたよ。」



佐伯は素直に驚いている。

警察官の中にも武道に優れている者が多くいるが、

こんな動きをする者は一人も見た事が無い。

素直に驚いた。
アレは空手か… 
それにしても見たことの無い技も使っていた。


そんな事を考えながら自分のネクタイをはずし、

少しでも血止めになると言うように
京介の腿に巻いた。



「救急車… とんでもない。
俺は帰る。こいつらを頼むぜ。」



京介はそう言いながら階段を上がって行く。

痛くても痛いと言わないのが男だ。

それに、望月たちが殺されていなかったことが
京介の心を軽くしている。
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