天使と野獣
「父さん、ただ今。
ちょっと傷を負ってしまったから、
父さん、治療をしてくれ。
父さんにやってもらおうと急いで戻った。」
京介が家に戻った時には既に安本が来ていた。
京介が父親に何も話していないようだったから気後れして、
勧められたリビングのソファーに座り、
何となく雑談をしながら京介の帰りを待っていた。
そんな時に京介が帰ってきた。
「何だ、またか。
しかしお前、友達を呼んでおいて忘れていたのだろう。
駄目じゃあないか。」
「友達… 知らん。
俺には友達はいない。
父さんだって知っているじゃあないか。」
その言葉… 安本には信じられない。
どんな顔をすれば良いのか…
「お前… まあいい、後で話をしよう。
どれ、傷はどこだ。」
そう言いながらズボンを脱がせた栄は
眉をしかめた。
「京介、お前はどこで何をして来たのだ。
これは… まだ弾が入っているぞ。」
「分っているよ。
だから急いで戻って来たじゃあないか。
俺の傷は父さんが治してくれる。
昔からそうだった。」
「ああ、そうだったが…
わしは自分の息子が銃弾を食らってくる事がショックだ。」
「分るけど… 仕方が無かった。
俺がいて警察官を殺させるわけにはいかない。
分るだろ、父さん。
頼むよ、早くしてくれ。
ちょっと痛む。」
「そうか、ちょっと痛むか。
分った、早くやろう。」
そう言って栄は、
ブルーシートをキッチンの床に敷き、
京介を寝かせた。
そして奥から自分の古い仕事道具を持って来て床に広げた。
京介がそんな負傷のまま戻った事にも驚いたが、
いくら外科医とは言え、
父親がキッチンにシートを広げる姿を見て、
安本は全く異世界に入った事を感じていた。