天使と野獣

「痛い。
父さん、もっと優しくやってくれよ。

父さん、麻酔は無いのか。
痛いよ。」



そこには安本が思っても見なかった、

腕白坊主の… 
小学生のような京介がいる。

いつも、東条京介は自分の世界にいて、
クールな態度。

それしか見ていない安本、
自分の目と耳を疑いそうだ。

それにしてもこの状態… 
一体何が… 

自分は夢を見ているようだ。



「うるさい、赤ん坊みたいに騒ぐな。
手元が狂うぞ。

おっ、お前は運がいいな。
銃弾は辛うじて骨からずれている。

やっぱりお前には母さんが付いているな。
いや、悪運が強いのか。」



栄は全神経を京介の傷口に集中させながら、
それでも、痛い、と言って
父に甘えているような息子の注意をはぐらかそうと、

京介の好きな話題を口にしている。

母の話はいくつになっても京介の心を和らげる。

栄にしても然りだが、
年齢が異なる分京介の方が効き目がある。


裏の世界では
ウインド・タイガーと異名を持つほどの挌闘人間。

何事にも無関心な高校生。

というように,自分を作り上げているような京介だが、

この時ばかりはまさに幼子のような雰囲気を出して
全身で父に甘えている。


いや、麻酔もなく、
体内から銃弾を取り出している、ということ事態、
信じられない事だ。

出血も… あんなにシートを汚している。


離れたリビングに座ったまま安本は目が離せず、
東条親子の様子を見つめていた。

何か手伝いは… と思うものの、

まるで尻から根っこが生えて来たみたいに動けなかった。

< 105 / 171 >

この作品をシェア

pagetop