天使と野獣

そして安本は、出血の多さに意識が薄れそうだったが、

時々発する京介の、
痛い、と言う声に刺激され、
辛うじて失神は免れていた。

しかし… その二人の行動はまさに現実離れしているが、

そこから感じられる親子の愛情。

不思議な気持だが… 
見ているだけで自分の心が温かくなって来ている。

父と子… たった二人だけの家族と言うのに、
寂しさとは無縁のようだ。


自分には両親も兄妹もいるが… 
上っ面の話しかしたことが無い。
家族が何を考えているのか正直なところ分らない。

いや、自分も心をはだけて話をした事が無い。
兄のように一流大学へ行って… 
そんな事しか考えていなかった。

だから成績の事しか考えられず、こんな事になってしまった。


安本は東条親子を見ながら、

確かに東条が銃弾をあびて戻って来た時は驚いた。

いや、そんなものではない。
かなりのショックを受けた。

しかし今、この二人の、
手際よいチームプレーのような行為に、

心が洗われている。




「よし、これで終わったぞ。
京介、よく我慢したなあ。
お前はいい子だ。」



と、栄は万遍の笑みを浮かべ、
優しい眼差しで、
額に汗を浮かべている京介を見た。



「当たり前さ。
俺が女々しかったら母さんが怒る。
そうだろ。」


「ああ、母さんは京介が強いと言って
嬉しそうな笑みを浮かべていたからなあ。

しかし、こんな怪我はもうするなよ。
それこそ母さんに叱られるからな。」


「分った。気をつけるよ。
俺、父さんがいるから安心だ。

だけど父さん、これ、まだ痛いぞ。」


「当たり前だ。
当分痛みは続くが仕方が無い。

嫌なら入院するか。
田島病院ならいつでも受け入れるぞ。」


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