天使と野獣
そして二人で京介を座敷に運び寝かした。
「かなり神経を刺激したから今晩は高熱が出るかも知れん。
今からこれを飲んでおけ。
少しは痛みも緩和されるだろう。
お前の集中力で痛みなど消してぐっすり眠れ。
今日は疲れただろう。」
「分った…
父さんが眠るまではここを開けといてくれ。」
「ああ、その方がいいな。」
そう行って栄はリビングと座敷を隔てている
襖をいっぱいに開け、
リビングで座っている安本と向かい合った。
「あんたはチーズをやっていたのかね。」
栄は緊張している安本に
優しい口調で声をかけた。
さっき、京介が戻るまで本題に入ろうとはしなかった安本だが、
京介は治療を終えて
隣の部屋で眠ってしまった。
嘘みたいだが、
あれほど痛がっていたと言うのに眠っている。
だから本来の目的、
京介の父親、
医者の父親に相談する事にした。
「そうだったのか。
しかし良く決心をしたなあ。偉いぞ。
なあに、仮に今年の受験が思うように行かなくても慌てる事は無い。
が、わしがこうしてあんたと向き合って感じることだが、
それほどの影響は無さそうだ。
京介の言葉だけで、
持っていたチーズをその日のうちに捨てるとは、
それだけでもたいしたものだ。
わしは専門医ではないが、
どうしても気になるようなら一度病院の方へ来たらいい。
とにかくあんたに必要なのは、
家族と腹を割って話をすることだ。
自分の気持ち、今の状況を全て話してみなさい。
初めは驚いて考えがまとまらず、
聞きたくないような事を言うかも知れないが、
それでもあんたを生み育ててくれている親や兄弟だ。
真剣に考えてくれるようになるはずだ。
良いアドバイスをくれるかも知れないし、
君の考えに従ってくれるかも知れない。」
「そう思いますか。
僕… 見捨てられても仕方が無い、と思っていますが… 」