天使と野獣

安本は、第一志望大学を受けて、
芳しくない成績だった事で見せた公務員の父親の蔑んだ目、

オーバーに泣き声で第二志望は絶対に、
と強引さを滲ませて励ました母親の顔。

そんなことが浮かび、
絶望的な気持だった。

しかし、この東条の親父さんは、
自分の可能性を応援してくれている。

とても心が軽くなった気分だ。

チーズではこんな気持にはならなかった。




「親というものはそんなに簡単に
子供を見放す事など出来んよ。

たとえ口で言っても心は別物だ。
君が大学へ行く目的はなんだい。 

京介は医学を学びたくなったと言っている。
君は何に興味があるのかな。」



栄は弱い心を持っている安本に、
穏やかな表情で応じている。



「僕はまだ… 
とりあえず大学に入ることしか… 

東条君はお父さんのように
立派なお医者さんが反面教師になってくれるから
羨ましいです。」



安本は、京介が先月までフラフラしていて、
担任に、卒業できない、とか、
東大を受けて入学出来れば卒業出来る、

と言われていた話をすっかり忘れていた。

京介の事情は、この一ヶ月の間に
ほとんどの生徒が知るところとなっていたのだが、

安本は今の親子の様子を目の当たりにして、

すっかり心が奪われ、
ただただ羨ましく感じていた。



「東条君の家系は代々お医者さんの家ですか。」



安本は高校生だが、
東条が住んでいるこのマンションが
いかに豪華かは理解していた。

医者だから金持ちだ、
などとは一概には言えないが… 

ここを見れば想像できる。



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