天使と野獣
それならばなおさら、警部の事を聞きたかった木頭たちだ。
しかし、銃弾をこうして見せたと言うことは…
この家の中でこの銃弾を取り出したと言うことか。
そのことに驚きながら、
木頭は栄に事情を話し、
京介から話を聞きたいと申し出た。
「京介は今日一日、忙しかったらしく、
今は眠っている。
人間には十分な休養も必要だからな。」
そう言いながら栄は、
来客があるとわかって慌てて閉めた襖を開けた。
そこには可愛い顔をした少年が
幸せそうな様子で眠っている。
人の声がしても全く気が付かないように、
ぐっすりとした様子で眠っている京介。
先刻、嵐の中で暴れ狂っている虎のように、
恐ろしい立ち回りをしていた高校生はどこにもいなかった。
ただあどけない顔をした少年が、
普通でないと言えば、
やたら消毒薬独特の臭いが辺りに充満しているだけだ。
「ここに手術室があるのですか。」
確かに広くて立派なマンションだが…
まさかそこまでは無いだろう、と思いながら
思わず声が出てしまった木頭だ。
「そんなものがあるわけが無いだろう。
向こうの床にシートを敷いて、
昔の手術道具で取り出しただけだ。
ああいうことは早くしないと危ないからな。
まあ、麻酔でもあれば良かったが…
あいつにしては珍しく痛がっていたが仕方が無かった。」
その言葉を聞いて…
二人の警察官は驚きの表情を浮かべた。
麻酔が無かった。
ここの床で。
あの少年はそれに耐えたと言うことか。
まさか… そしてあのあどけない寝顔。
この父親は息子をどんな風に育てているのだ。