天使と野獣
その言葉に栄は、
この刑事たちが可愛い息子を銃弾の危険にさらしたと確信し、
珍しく強い口調で応じた。
「戻っていますよ。
まさか警察がいて息子にあんな怪我をさせるとは心外ですよ。
しかしまあ、私が外科医で幸いでした。
以後は民間人の息子、
それも高校生を利用する事は止めてもらいます。」
そう言って栄は、京介の腿から取り出した銃弾を木頭に見せた。
「これは、まさか… 」
栄が渡した銃弾を見て木頭は驚きを隠し得なかった。
実は… 何故か分らないが、
木頭たちが佐伯から連絡を受け、
現場に急行した時には犯人はおろか、
佐伯の姿もなかった。
京介が怪我をしたとこまでは聞いていたが、
その姿も無く、
地下にいたのは、気を失っていた望月たち五人と、
ナイフが刺さり冷たくなっていた、制服姿の増田だけだった。
望月たちは辛うじて命は無事だったが、
意識を失くしていたから、
何があったのか分からなかった。
佐伯が連絡を入れたのだから、
その時点では無事だったはずだ。
しかし、駆けつけてみれば、
負傷しているはずの京介の姿も、
気絶しているはずの犯人たちの姿も、
佐伯と共に消えていた。
目下、本部を挙げて躍起に捜索しているがおもわしくない。
それで念のためにと、
木頭たちだけが東条京介の家を
訪ねて来たというところだった。
この銃弾があるということは、
東条京介はここに戻っている事なのか。
と、それだけが分っただけでも少しは安堵の気持がでた。