天使と野獣
息子を囮に…
この人は本気でそんな事を…
確かにそのアイデアは絶対なものだが…
「でも… そんな囮に…
東条君は怪我もしているわけですから…
我々の一存では… 」
民間人の高校生を囮になど、
後でマスコミにつつかれれば、
せっかく事件が解決してもその功績は水泡に化してしまう。
第一おとり捜査は違法とされている。
「なあに、そんなに深刻に考えなくても良い。
ただ銃弾を受けた高校生が、
廃院で内密に手術をしているらしい、
とわざとらしく盗聴されている本部に連絡をすれば良いのだ。
そしてあんた達だけが様子を見に駆けつける、と。
そうすれば刑事の数は二人だから
犯人達も安心して出向くと思う。
そこを捕まえて警部さんの居所を聞きだしたほうが
余程早く解決するのではないか。」
まさに、スマートな考えを出している栄だ。
「そうですねえ。
それなら本部でも囮とは受け取らないでしょうが…
でも本当にそんな危険を冒して良いのですか。」
さっきは息子を危険な目に遭わせた、
と言って厳しい顔をしていた人だ。
医者と言う事だが、こんな立派なマンションに住んでいる。
それなりの社会的地位、と言うか、
人脈があるのかも知れない。
本当に口車に乗っても良いのだろうか。
木頭と佐々木は顔を見合わせている。
確かに確実な方法に思える。
今から盗聴容疑で吉永婦警を捕らえたとしても、
彼女が素直に話すとは限らない。
あの手の年増は扱いにくい。
内通者仲間からのよこやりが入ってくるかも知れん。
手を抜く事はないが…
すんなり行くとは思えない。
多分、時間がかかる。
それよりも… 確かに、これは名案だ。
が… これ以上、この少年を危険の中に置いて良いものだろうか。
父親が考え出した案だが…
どうも、この親子の事が分からない。