天使と野獣
「治ったのか。」
「いや… 吉岡君の話では、
仏壇に手を合わせにきた時には、
まだ不安定さが見られたらしい。
可愛そうなほど怯えていた、とか言っていたぞ。
彼は、それほどに息子を好いていてくれたのか、って、
まあ、親としては嬉しいような、
複雑な気持だったらしい。」
「やっぱり、まだ隠されているのか。
父さん、望月たちは… 」
「京介、お前の学校の事だろう。
自分の目で確認して来い。
わしは仕事に戻る。」
なるほど、道理だ。
あれ以来、京介の興味が納戸に移り、
後は卒業式に父と出席するだけ。
と考えた京介は登校していなかった。
警察は犯人たちを捕まえたが…
京介は、自分に無念を訴えた吉岡の気持を、
晴らしてはいないことに気づいた。
そう、考えてみれば、
チーズに気づいた吉岡が、
好きな女を伴って、
売人という危険な奴に会うはずはない。
女はまだ精神的に不安定。
そう思った京介は、
急いで学生服に着替え、
栄のあとを追うように家を出た。
行き先は… もちろん学校だ。
「おい、直道、ちょっと来い。」
廊下から声を掛けられた
二年生の高橋直道、
そこにいる京介を見て驚いている。
もちろん級友たちは、
噂の東条京介がいきなり現われた事で、
動きが止まっている。
幸い二年生は、
明日の卒業式に向けての準備中だった。
ここのところ、学内に京介の姿がないことは知っていた。