天使と野獣

「さっき、一瞬だったが顔を見た。
あいつ… やばいぞ。
目の下にくまが出来ていた。
寝不足… 寝られないのだろう。

初めて会うから、元の様子は分からないが、
かなり衰弱しているのではないか。

多分両親はお前の事に心が行き、
あいつの事は安心していたんだろう。

おまえ、あいつを守りたいのなら、
素直に親に話せ。それも、すぐだ。

一連の事件は解決している。
が、薬物がらみだから警察には通報される。

それでも状態が悪くなり、
自分を傷つけたり、
他人に危害を加えるようになってからでは
取り返しがつかないぞ。

お前が今しなければならない事は、
現実逃避ではなく、
吉岡の意志をついで、あいつを守ることだ。」



やっと直道にも京介の心が読めた時だった。


隣の部屋から、何かを壁にぶつけるような音が聞こえてきた。

それにいち早く反応したのも京介だ。

和美の部屋を出て光彦の部屋へ… 
鍵がしてあった。

元々鍵などはない部屋だが、光彦がつけたのか。

しかし、京介にとって鍵を蹴破る事などぞうさもないこと。

簡単に鍵を壊した。


部屋の中では… 
血走った目で、光彦がカッターナイフを握り締め、
手当たり次第に切りつけていた。

時々、



「悪魔め、どこに隠れた。」



とか口走り、
枕やマットレスまで中身が見えている。

壁にぶつかるような音は、

電気スタンドや鉛筆削り器などをぶつけた音だった。

床にも、歩く踏み場もないほど、
教科書やノート類、本箱にあった数々の書籍が散乱していた。

まさに今、京介の口から出た症状が、

幻覚のようなものが出ているようだった。



「光彦… 」



和美は驚愕の声をだし、
怯えた顔をして弟に近づいた。



「きゃあっ。」



その時、光彦は近づいた和美の腕をナイフで切りつけた。

それを見た京介は、
慌てて光彦に当身を食らわし、

和美をドアのところで立っていた直道に預けた。

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