天使と野獣
「直道、早く親たちを呼び戻せ。
俺は父を呼ぶ。」
いざとなれば京介の脳裏には
栄の顔が浮かぶ。
強靭な男たちと闘うことには慣れていても、
まだ子供の面影を残している、
中学生の薬物被害者を扱うのは…
自分ではなく父だ。
父なら何とかしてくれる。
直道は事の急展開に驚いている暇はなく、
和美をダイニングのイスに座らせ、
救急箱を持ってきた。
それを京介に任せ、
慌てて和美の両親へ連絡した。
「わしは外科医、と言う事を忘れたのか。
しかしまあ、こんな子にまで… 」
いち早く駆けつけた栄は、
床に横たわっている光彦を見て顔を曇らせた。
こういう症状が出たのなら、
しばらくは入院させたほうが、
と言う事は分かっている。
その内に母親が駆けつけ… 光彦の部屋の様子、
倒れている子供を見て、
まさにパニックを起こして泣いている。
しばらくすれば父親も戻る。
「父さん、俺、帰る。後は頼むな。
吉岡はこいつを守りたかったんだ。
だから、増田に談判に行き、
あいつらも必死だったから、
返り討ちにあってしまった。
だけど、こいつが元に戻れば吉岡は嬉しいと思う。
俺の仕事は終わった。
なるべく穏便に… 考えてくれ。
直道、帰るぞ。」
と言ってドアに消えているが…
呼ばれたのは嬉しいが、
すでに早退の手続きをして学校を出た直道。
どこへ帰るのか… 分からない。
家はここだが…
道場へ行っても…
京介さんはどこへ行くつもりなんだろう。