天使と野獣
「あの子はうちの病院で、
入院しながら薬物矯正プログラムを受ける事になった。
警察に報告はしたが、
あくまでもとばっちりを受けた被害者と言う事だ。
和美さんも親御さんも落ち着き…
わしが帰る頃には、
お前によろしく、と言っておったぞ。」
あれから二人は、
やはり道場へ行っていた。
京介は師の相馬となにやら話し込んでいたが、
直道はたまたまいた大学生師範の中井と
取り留めのない話をして、
京介が帰るときに、
家の方向も違うのに、
何故か合わせて道場を出た。
その頃には、すっかり存在を忘れられていたのだが、
一緒に来た、ということで何となくそうなっていた。
「ところで明日の卒業式だが、
さくらさんも一緒に出席したいそうだ。
お前、明日はおとなしくしろよ。
元来日本の卒業式は、
静かなる事をよし、としている。
静粛に… 眠ってはいかんぞ。」
学校での京介の態度を知る由もない栄は、
騒ぐ事はいけない、と、
京介に小学生並みのアドバイスをしている。
「どうしてさくらさんが来るのだ。」
「あの人は高校を中退したそうだから、
高校の卒業式を見たいらしい。
いや、お前の卒業式を見たいのだろう。
わしと同じだ。」
「そうか。わかった。」
卒業式は何かにつけて特別待遇だった。
校門のところで写真を撮ろうと順番を待っていれば、
順番抜かしのような形で、
先に写させてくれた。
初めはさくらさんがカメラを持っていたのだが、
いつの間にか、
知らない人が三人を写してくれた。
そう、どの父兄も
東大医学部に入学する京介親子に興味があり、
初めての栄たちに想定外の親切を見せてくれた。
会場となっていた体育館に入れば、
京介の近くの父母席に案内してくれた。
校長を初め教師たち、
来賓としてきていた人たちまでもが、
栄やさくらの席に来て挨拶をしている。
まあ、さくらだけを考えても、
見渡す限り、
さくらほど人目を引く美人はどこにもいない。