天使と野獣
それから、二人はさくらさんと別れて大田区へ向った。
もちろん墓参りだ。
同じ墓に眠っている大工の父さん・栄一郎と
剣二郎じいちゃんにも報告だ。
京介はたった一枚の白黒写真でしか知りえない剣二郎だったが、
特別な愛情を感じていた。
父も実際の父親・剣二郎の事は知らないらしいが、
それでも栄一郎じいちゃんからきいた話では、
何かにつけて京介に共通するものがあるらしい。
剣二郎は海軍… 地球を取り囲んでいる海、
広い世界を持っていた男だ。
きっと心の中では、
広い海を制覇しようと思っていたのかも知れない。
決して独裁者ではなく、
皆が自由に行き来できるようにしたかったのだ。
今は飛行機だが、
京介も世界は自分のもののように、
相馬と共に短期間で長距離を移動している。
そう、海は広いが世界は狭くなっている。
「父さん、俺、3月、留守にして良いか。
年末からあまり体を動かしていないから… 」
「なんだ、相馬さんと出かけるのか。」
「うん、昨日、話をして来た。
卒業式が終われば3月は暇だと言ったら、
何か計画してくれるって。
あそこの道場では俺の相手にはならないから、
先生が考えてくれるんだ。
今度は数ヶ所回れるな、って先生も張り切っていた。」
「そうか。わしもイギリスで行われる学会に出席しようとしていたから、
その時にお前を誘おう、と思っていた。
一緒に観光しても良いかな、って、な。」
「え、そうなのか。」
「まあな。しかし、相馬さんと行く方がお前には魅力だな。」
「いや、先生に話しておく。
そう言うことが分かっていれば計画が立てやすい、って言っていた。
学会はいつなのだ。
先生に伝えておく。」
そう言いながら、京介は墓の前で、
手を遭わせるわけではないが、
墓石を睨んで…
京介にしてみれば、
ここに眠っている剣二郎に話しかけているつもりだった。