天使と野獣
「お前、長い事、にらめっこをしていたなあ。
母さんがあきれているぞ。」
やっと京介が動き出すと、
栄が笑みを浮かべて声をかけている。
栄は、あれだけ大好きだった母の墓に
はじめて来た京介、
つもり積もった話があったのだろう、と考えていた。
「母さんではない。
剣二郎じいちゃんと話をしていた。」
「剣二郎…
あんな写真が一枚しかない人と話していたのか。」
正直なところ、確かに剣二郎は自分の父かもしれないが、
栄にとっての父は、育ての親、
栄一郎しか浮かんでこない。
それだけに、
ここまで肩入れする京介の気持の方が不可解だった。
「ああ、マサムネを大切にする、と報告した。
それから俺のために父さんを守ってくれ、と頼んでおいた。
剣二郎じいちゃんは寿命をまっとうせずに死んでしまったのだろ。
残りの寿命を父さんにくれ、って、頼んだ。
そうしたら父さんはすごく長生きできる。
俺と同じぐらいは、楽勝だ。」
「お前… まだそんな事を… 」
栄は京介の言葉に、何とも言えぬ顔をしている。
「当たり前だ。
俺が妙薬を開発するまでは神頼みだ。
あ、そうだ。ここには剣二郎じいちゃんの小太刀が入っていると言ったが、
昔、俺にくれた小刀、
どこにあるのか知らないか。
俺… 貰ったのは覚えているのだが…
引越しの時に失くしてしまったのかなあ。
もしそうなら、この場で父さんと母さん、
それにご先祖様にも謝らなければならない。
今まですっかり忘れていた。
それだって申し訳ない限りだ。」
と、京介は情け無さそうな、
気落ちした雰囲気を出している。
昨夜、記憶の糸をたぐり寄せて真剣に思い出そうとしていた。
5年生で優勝した後、
初めて本物の刀を手に入れた。
嬉しくて、寝る時も抱えるようにして眠っていたのは思い出した。
しかし、その後母さんが死んで…
その頃の記憶が戻ってこなかった。
引越しの時、失くしてしまったのか、
と言う結論を出して眠ってしまった。