天使と野獣
「ああ、あの刀か。
あれは母さんが持っている。」
「母さんが… だってあれは母さんが言いだして、
父さんが持ってきてくれたのだぞ。
俺が持っていたのではないのか。」
京介は父の言葉に…
狐に包まれたような顔をしている。
「お前、忘れたのか。
母さんの葬式の時、
母さんが悪霊にいじめられないようにって、
お前が母さんに持たせたのだぞ。
もっとも実際は火葬など出来ないから、
遺骨と共に埋葬した。」
「ここにあるのか。」
京介は驚いた顔をしている。
自分がそんな事を… 覚えが無い。
はっきり言って、
母の葬式の事など何も覚えていなかった。
考えるだけで悲しみやさびしさに襲われ…
墓に来たのも初めてだ。
そして栄も、あの火葬場での恐怖を思い出していた。
京介はあの時のことを、
本当に覚えていないようだ。
「じゃあ、この墓には小刀が二つは入っているのか。」
「ご先祖の誰かも入れたかも知れんぞ。
昔の墓だから、結構中が広い。
骨などは見分けがつかなくなっているだろうが、
刀は残っている。錆びだらけだろうがな。
母さんの遺骨を埋葬する時、
辛うじて剣二郎の守り刀がみえた。」
「本当か。俺も見たい。
開けてみよう。」
「だめだ。墓など簡単に開けるものではない。
次は… まあ、わしが死んだときだ。」
「そんなものなのか。
それなら永遠に俺は見られないという事か。
まあ、父さんが見たのなら確かだ。」
相変わらず、京介は
栄を自分より先には死なせない、という気持を出している。
そんな時に寺の住職が顔を出し、
京介のことを聞いているのか、
仏様が喜んでいらっしゃいますよ、などと言い、
簡単なお経を上げてくれた。