天使と野獣
確かに母は喜んでくれただろうが、
実際、京介が母に語りかけた事は、
春から大学生、ということと、
父をそっちの世界に呼ぶな、ということだった。
医者になる、ということも言わなかった。
とにかく、京介がここに来たかったのは、
剣二郎と話がしたかったからに他ならない。
「京介、思っていたより遅くなってしまった。
昼も外食だったが、
夜も、どこかで食べて帰るか。」
「ああ、今度は和食がいいな。」
「じゃあ、すし善に入るか。
あそこなら、すしだけではなく料理も出す。」
そう言って、二人は駅前の、
時々利用しているすし屋へ入った。
顔見知りのなじみ客、東条親子の顔を見ると、
京介の噂はこんなすし屋にまで伝わっていたらしい。
店主夫婦が顔をほころばせて歓迎してくれた。
いつもはカウンター席か入り口付近のテーブルだが、
その時は、予約客がたまに使う、
奥の一角に案内してくれた。
「お前が東大へ入ったと言う事で、
自分の子供のように喜んでくれているのさ。」
栄が嬉しそうな顔をして、囁いた。
そして、注文したすしや料理が運ばれ、
食べているときに意外なやつが顔を出した。
「安本君、どうかしたのかね。」
顔を見て反応しているのは栄だ。
安本なら京介の同級生のはずだが…
当の京介は、そ知らぬ顔で箸を動かしている。