天使と野獣

幸い栄の被害は軽傷、
それで二人は氏名や住所を教えて
家に帰る事にした。



「父さん、本当に大丈夫か。」



タクシーの中で、二人は病院にいる間に
警察官から聞いた話を思い出している。


栄が医者と言う事と、
誰からも信頼される人柄の故か、
警察官が治療の終えた栄にいろいろ話したようだ。

それを今、栄は京介に話しているのだ。



「ああ、こんな傷はたいしたことは無い。
しかし… とんでもない世の中になっているのだなあ。

自分が法に触れる事をしていて、
警察に捕まりそうになると、無関係の人を傷つけ、
その隙に自分は逃げる。
通り魔殺人と言う言葉も出ているしなあ。」



が、栄は世間的な話をしているつもりでも、
京介の頭は違う事でいっぱいだった。



「ふざけた奴らだ。
俺、あいつの顔は覚えているから、
今度会ったらただではおかない。

父さんの仕返しをしてやるよ。」


「馬鹿な事を考えるな。それは警察の仕事だ。
しかしなあ… 

最近はあの男たちが密輸したヘロインに
市販の頭痛薬、タイレノールPNを混ぜて
チーズという違法ドラッグを作り、

若者を対象に売りさばいていると言う話もある。

一回分が五百円程度らしいから、
最近は高校生の間でも広がっているらしい。

お前の学校は大丈夫か。」


「さあ、俺は… 聞いた事がない。」



学校… そんなものは完全に消えていた京介だ。

たとえ同じクラス内で何かが起こっても、

ちょうどその時、その場に居合わせ、
自分に災いが降りかかれば話は別だが、

それ以外は… 何も分からないだろう。


人の噂話など、耳に入れたことはない京介だ。

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