天使と野獣

「まあ、お前はそうだろうが… 
とにかくチーズの他にも
ストロベリー・クイックと言うのもある。

そっちは子供用の苺ミルクの粉末に
覚せい剤成分のメタンフェタミンと言うのを混ぜたものだ。

とにかく気分が良くなる、
と言う事しか深く考えないで安易に買うらしい。

しかし、先月には服用し過ぎた若者が興奮して、
いきなり友人を歩道橋の階段から突き飛ばした、
と言う事を聞いたぞ。

ああ、父さんの病院に担ぎ込まれたから
遠くの出来事ではない。

わしは他の患者を診ていたから後で聞いただけだが… 
被害者の尿からも微弱だがヘロイン反応が出て… 
警察に届けて事が分ったという次第だった。

軽いから中毒にはならないだろう、とたかをくくって、
興味本位で服用していれば、
その内にもっときついものが欲しくなり
ヘロインなどに手を出すようになる。

京介、お前絶対に手を出すなよ。
お前は何でも自分で試したくなる性格だから、
親として一応言っておく。」



栄は父親として、医者として、
息子に自分の知りえた情報を話した。


同じ世代の若者の事。

知識として覚えておくのは悪い事ではない。


しかし、思い出した… 

この京介ほど怖いもの知らずで
興味心旺盛な奴はいなかった。


知識では分かっていても、
どんな味だ、とか言って、
なめるぐらいはしそうだ。

それで、一言付け足した。



「止めろよ。俺はそんなものには興味は無い。」



あっさり応じた京介。


それが事実ならば、親としては安心だが… 

その場になってどう反応するかが、問題だ。

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