天使と野獣
「お前までそんな不確かな事を言うような奴になるなよ。」
京介は徹にそう言ってその場を後にした。
その内に病院に入った和美本人から聞きたい、と思っている京介だが、
とりあえずは周りの状況を、と
今までした事の無い行動に出ている。
しかし、自分は学校には興味が無い、とばかりに
風のように抜け出していた京介、
意識していないだけで周りからはかなり存在感があったようだ。
だから徹を呼び出せば皆が何事か、と顔を出した。
おせっかいな奴らだと思い、
邪魔をするな、とばかりに
睨み返したのが東条京介だ。
「京介さん。」
京介が二年生の教室へ行くと、
既に高橋直道が廊下に出ていた。
徹から携帯で連絡を受け、自分から廊下に出ていたようだ。
この直道と徹は学年こそ違うが仲が良く、
小学生の頃から一緒に空手道場へ通い、
高校になれば空手部に入っていると言う仲だった。
「徹から聞きました。和美のことですね。」
やはり二年生も自習になっていた。
が、一年生のようにあからさまに廊下に顔を出す者はいない。
皆チラチラと廊下に目をやり、耳をそばだてている。
いつも一人でいるイメージしかない三年生の東条京介が、
うちのクラスの高橋直道と話をしている。
それだけで大ニュースだった。
卒業したら警察学校へ入って警察官になりたい、
と言っている空手しか興味の無い同級生の高橋に、
東京大学へ挑戦している三年生、
何かと興味のある東条京介が何の用があるのだ。
不思議で仕方がない。
京介が直道と同じ空手道場の門下生、などとは誰も知らなかった。