天使と野獣

「おい、山下、ちょっと来い。」


翌日、自分は気ままにしていても、
他の生徒は真面目に教室にいる時間帯、

京介は一年生の空手道場仲間・山下徹の教室に行き、
相手の都合も考えずに呼び出した。

その時は全校自習だったが… 



「京介さん… 」



同じ学校でもほとんど口を利いたことの無い京介の呼び出しに、
徹は緊張と感激の入り混じったような顔をして急いで廊下に出た。


三年生の東条京介… 
京介は誰にも関心が無く高校生活を過ごしているが、
ほとんどの者は京介を知っていた。

無愛想だから話など出来ないが、
その整った清楚な美貌の持ち主に関心があった。

言葉使いはその容貌とはかけ離れた荒いものだが
とにかく格好良い。 


だから徹のクラスメート達は驚いて廊下に顔を出し、
二人を見ようとしていたが、

京介の鋭い眼光に睨まれて慌てて席に戻った。



「お前、あの女の事を知っているか。
同じ一年生だろう。」


「酒井さんですか。ええ、少しは… 
だけど僕より直道さんの方がよく知っていると思います。

千駄木の駅裏にある大きな公団住宅に二人とも住んでいますから。
幼馴染みのようです。」


「そうか… 」


「酒井さんはあの吉岡と言う二年生と付き合っていたから… 
今も教室はそのことで持ちきりでした。

吉岡さんはサッカー部で、
この前の地区予選で活躍したから女子学生の間で人気があり… 

それで酒井さんが嫉妬して喧嘩になり、
思わず突き落としてしまったのではないかって。」



徹は京介が吉岡の落下に興味を持っていると感じたらしく、
少しでも情報を、とクラス内の話を伝えた。
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