天使と野獣

いくら京介でも千里眼ではないから確実な事は分らない。

しかし、大下と言うのはあの望月の子分だ。

あいつらは増田にコケにされたと思って、
自分達でけりをつけようとしたのだ。

俺のせいだ。

俺が増田の事を話さなければ
あいつらは何も気付いていなかった。 殺される…  
そんな事になれば俺のせいだ。

父さんが聞けば… 

京介は恐怖さえ感じていた。


自分に降りかかる火の粉なら
どんな事をしても消す自信はあるが… 

あいつらの用心棒になることは想定外だった。




「東条君、早く乗って。
どの方向へ行けばいいのかね。」


「分らない… が、青山通り方面へお願いします。」



京介は怒りと恐怖を感じながら、
必死にその心を隠して思い当たる所へと向かった。

自信は無い… 他の刑事に、
あの三人の男たちが働いていた中華料理店へも行ってもらった。

あの三人についてどんな事でも良いから調べて欲しかった。


が、結局思い当たった所は全て空振りだった。



「俺、この辺を歩いてみます。
警察もいろいろ捜してください。」



京介が一人で歩き始めると後ろから佐伯がついて来た。



「私が君と組むことにした。
よろしく頼むよ。」



そう話す佐伯の様子は
初めに感じた穏やかさが出ている。


責任感で押し潰されそうな京介は
その穏やかさが嬉しかった。

はっきり言えば、
父と同じ匂いがしていた。


京介は望月たちの事を思い出しながら佐伯に話している。

あいつらは正真正銘の不良だが、
昔からいる不良だ。

親がテキヤかなんかは知らないが、
チーズに手を出さなかった、昔かたぎの不良だ。

そう、京介にとっては憎めない不良だ。

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