エージェント
戻ってくるはずのなかった土地に、戻ってきてしまった。
ーーー東の街
「光希ちゃん、これ見てー!」
「ちょっとっ…」
変装はバッチリしてある。
服装もいまどきでかつ、妊娠のわたしにはゆったりなワンピース。
頭はウィッグを被ってる。
わたしだけじゃなく、母さんも同様に変装させた。
普段とは違い、和服ではなく洋服だ。
ーーー家を出ることすらバレなかったから、いま大慌てで探されてるだろう。
電話が怖くて、スマホは電源オフしてる。
「この前テレビで見て、いいなぁって思ったから、ここに来たかったんだよね」
母さんは微笑みながら、お店を回っていく。
母さんにとっては良い思い出がない土地なのに。
嫌な記憶、思い出さないのかな。