幕末異聞
「そして、その三日後、九月十六日の夜。
新撰組拝命の祝賀会を島原の角屋で開く。
隊士を屯所から遠ざけるんだ。
芹沢には酒を好きなだけ飲ませ、泥酔させてから先に屯所へ帰す。
その後、酒の場は近藤さんに任せ、俺らは角屋を他のヤツらに気づかれないように出る。
芹沢を含める残りの芹沢派は屯所で暗殺という形にする」
「…それは、寝込みを襲うということですよね?」
「そうだ」
「えぇ?!!それはいくらなんでも卑怯じゃありませんかッ?!」
原田は土方の計画に不満を漏らす。
そんな原田の気持ちは武士道を貫こうとする土方には痛いほど解る。
だが今回ばかりは話が違うのだ。
「原田君、君の言うことはもっともだ。
だが、今回はある一定の人物を確実に殺さなければならない。
二度は無ェーんだ。総司」
「何でしょう?」
「お前、素面やほろ酔いしてる時の芹沢を確実に一発で仕留める自信はあるか?」
「ん〜……。
確実に!とは言い切れませんね。残念ながら」
沖田は自分の技量を客観的に見たときの正直な意見を言った。
「原田君。認めたくはねーが芹沢は間違いなく、今の新撰組の中で一番の剣客だ。
そいつを仕留めるためには、万が一。一回で仕留められなかった時でも意識のはっきりしていない睡眠時ならなんとかなる。
わかってくれ」
土方は無謀な計画を立てたりしない。
それは武州時代からの付き合いでわかっている。
理にかなったこの計画。原田が反対する理由はなかった。