幕末異聞
――土方さんは楓と向き合う決心をした。
――楓は自分がどうするべきか懸命にもがいてる。
――私は?逃げてばかりか?
沖田は非番でもないのに珍しく自室の掃除をしていた。
夜の巡回までは相当時間があったため、何か暇つぶしはないかと考え思いついたのがこれだった。本当はゆっくり縁側に座ってお茶でも飲もうかと思っていたが、何もしてないと色々考えてしまうので敢えて体を動かすものにした。
「これここでいいの?」
「ああ!ありがとうございます」
一緒に手伝っているのは藤堂。(正確に言うと手伝わされているのだが)それほど荷物の無い部屋なので、二人で片付けるのは容易だった。
「あっ、総司!!見てみて!」
「ん?」
藤堂は押入れに頭を突っ込んだまま沖田に向かって手招きする。
「これ懐かしくない?!まだ持ってたんだ!」
藤堂が押入れから出してきたのは竹で作った玩具の刀。
「本当だ〜!!私そんなもの持ってきてたんですねぇ!」
「あん時俺ら刀に憧れて近藤さんに強請ったんだよな〜」
「ふふ。あの頃はまだ刀の値段も全く知らなかったんですよね」
二人が懐かしんで見ている竹の刀は、まだ新撰組が出来るずっと前、近藤が武州で試衛館の師範をしている時の物だった。
まだ少年と青年の間だった沖田と藤堂はこの竹の刀を自分で作り、よくチャンバラをしていたのだ。
「あの頃はこんなになるなんて思ってなかったなぁ」
軽い竹の刀をヒュンヒュンと音をたてて振る藤堂。
「本当ですよね〜。今は本物の刀を持って京都の治安維持活動ですもんね!」
沖田も昔を思い出し、つい笑顔になる。
「…不貞の輩をバッタバッタと切り裂く壬生狼…か」
「…」
藤堂は持っていた竹の刀を沖田に手渡す。
「まさか自分が真剣持って人を斬るなんて…あの頃は思ってなかった」
沖田は渡された竹の刀の刃にあたる部分を指でなぞる。