幕末異聞
無表情で静かに発せられた言葉には感情が全くこもっていなかった。

「だろうな。お前のその目、普通に生きてきた人間の目じゃねー」


「…」


芹沢は酒を一口呑み、深呼吸をした。



「そうよの、お前の目はまるで…」



――狂鬼だ。



そう言い放った芹沢に対し、楓は口元だけで笑った。


「ふっ。自分が生き残れるのであれば、どんな恐ろしい鬼にでもなって見せましょう?」



この二人を間近で見ていたお梅は、両者の殺気に寒感を覚えた。
そして、自分が震えていることに初めて気がついた。

「なるほど。生に貪欲なのは悪いことではない。
だが、武士である以上、生にしがみついたままでいると足元をすくわれるぞ?」

「うちは武士になった覚えはありまへん。ただ、自分の命に危険を及ぼすモノを排除してきただけです。
これからもそれは変わらん」



「…くっくっ。本当におもしろい女だなお前は」

「ふふ。こんな無礼な部下を放っておく芹沢局長もずいぶん変わり者ですよ?」


「がはは!!全くだぜ!」


この日、真剣な会話はこれが最後だった。


あとは酒を飲みながら他愛も無い話を延々としていた。



楓が屯所に戻った時には、すでに隊士たちは眠りについていた。

楓も、流石に疲れたのか、自分の布団に入って間もなく深い眠りに着いた。



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