幕末異聞
「……だ、そうだ」
そっけなく言う楓が可笑しかった。
顔を見ると気まずそうな表情を浮かべている。
本当に不器用な子なのだ。
「…お梅さんですか!そうか、芹沢さんの。
初めまして、私は新撰組隊士の沖田総司という者です」
礼儀正しく挨拶する青年。
名乗った瞬間、誰だかすぐわかった。
壬生浪士組時代から凄腕の剣士として京の町でも名高いあの沖田総司だ。
京の住人でも沖田の姿を見たというものはそう多くない。名前と噂だけが一人歩きをしているため、みんな
“沖田総司は厳つい体で鬼のようなゴツイ顔をした男”
だと思い込んでいた。
「あんさんが沖田総司?!!
…はぁぁぁ。そんな容姿で…誰も気づかん訳やなぁ」
「はい?」
「女みたいやろ?」
「楓。私の刀、今日鍛冶屋から戻ってきたんですよ!試し切りの練習代になってみます?」
「あんたやっぱ腹ん中とてつもなく黒いなっ!」
楓は完璧に沖田総司に遊ばれている。
しばらく二人の言い合いを見ていたが、先ほど沖田総司と遊んでいた子どもたちがこっちに寄ってきた。
「そうじ〜!!早ぅこっち来て鬼ごっこしようや!」
男の子が沖田の着流しの裾を引っ張る。
その言葉をきっかけに子どもたちは沖田と楓を取り囲み騒ぎ始めた。