Time is gone
 自らの内面から発せられるまか不思議な衝動に、俺は戸惑っていた。
 欲しい。無性にこの時計が、欲しい。
 なぜかは分からない。
 ……これは魔力だ。俺はそれに魅了されている。
 己の内から発せられる衝動に名前を付けようとも、それに抗えるはずもなかった。
 時計はそんな俺の心をもてあそぶかのように、持ち主の鼾に併せて揺れていた。
 このままこの時計が滑り落ちれば、男がそれに気付かなければ……。
 ハッとし、慌てて水を口に含んだ。
 何を考えているんだ! 人の物だぞ! 
 そのとき、電車がもの凄い勢いでホームに滑り込んできた。振動に地鳴、一斉に立ち上がる人々、豪快な鼾、俺の祈り、それらがシンクロし、それは起こった。
 時計は持ち主の手を滑り落ち、カチャン、と言う甲高い音と共に地面にぶつかり、一度跳ね、そして俺の足元で制止した。新たな持ち主はお前だ、そう言わんばかりに。
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