Time is gone
 

 幸い、終電までには後二本の電車があった。酔い覚ましのミネラルウオーターを購入し、ベンチに腰を下ろした。
 俺の隣には、見るからに高そうなスーツを着た中年男が、豪快な鼾をかいて眠っていた。メタボリックな腹に禿げた頭、高価なスーツのコラボレーションは、豚に真珠、ということわざを題材にした彫像のようだった。
 その豚の中で一際目を引いたのは、だらりと手首にぶら下がった、一つの時計だった。
 懐中時計。
 俺はその時計を一目見ただけで、目が離せなくなり、心臓が暴れだした。子供の頃、大好きだったヒーロー戦隊の超合金ロボットをデパートで見つけたときのように。
 それは金メッキ加工された、掌大の懐中時計だった。特にダイヤやスワロフスキーなどで装飾されているわけではない。いたってシンプルな作り。そして年代を感じさせる、細かい傷が目立った。
 高価なスーツにレトロな懐中時計。アンバランスだ。それとも、相当価値のある時計なのだろうか。そうだとしても、俺はそんなものに興味はない。価値ある時計ならば、ロレックスやオメガといった腕時計の方が魅力的だ。
 それにも関わらず、俺の心臓は今にも手を生やし、その時計を掴み取らんばかりに暴れていた。
< 7 / 407 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop